財務担当者に求められるコミュニケーション能力
中小企業の経営において、財務担当者は単なる「数字の管理者」ではなく、
経営判断に必要な情報を整理・提供する社内のパートナーとしての存在感が問われるようになっています。会計知識や財務制度の理解に加えて、経営者と信頼関係を築くことができるかどうかが、その業務の成果を大きく左右します。本稿では、社内の財務担当者が実務を超えて、経営者の意思決定を支援する存在として求められるコミュニケーション能力と実践ノウハウについて解説します。
財務担当者は「経営者の懐に入る社内パートナー」
中小企業の経営者は、日々多くの判断に迫られる中で、時間も情報も限られた環境にいます。その中で、財務担当者が分析結果や資金繰りの提案を伝えるときに、どれだけ“伝わる形”で説明できるかが、実行力に直結します。
財務の話題は、企業の将来に関わるセンシティブな領域でもあるため、専門用語や形式に偏ると、経営者との距離が開いてしまうこともあります。
“耳障りの良い表現”だけで信頼を得ようとするのではなく、ときに厳しい現実も丁寧に伝え、会社の未来に真摯に向き合う姿勢が求められます。
経営者と信頼を築くための7つの実践ノウハウ
① 最初に経営者の関心領域を把握する
報告や分析に入る前に、「最近、最も気になっていることは何ですか?」といった経営者の“今”の関心事に耳を傾ける姿勢が、信頼関係の第一歩となります。
② 意図の確認と復唱で認識のズレを防ぐ
たとえば「この投資はどう判断すべきか?」という相談に対しては、
「つまりこのような背景を踏まえての判断という理解でよろしいですか?」
と確認を入れることで、経営者が「わかってくれている」と感じる対話ができます。
③ 自分の意見は、冷静に率直に伝える
意見の相違があっても、丁寧に論点を整理し、選択肢を添えて提案することが大切です。
「否定する」のではなく、「視点を加える」ことが目的であると意識しましょう。
④ 専門用語はできるだけ使わず、わかりやすく説明する
たとえば「債務超過」や「キャッシュフローの逼迫」といった言葉を、「預金残高がこのままでは〇月に足りなくなる」など、イメージしやすい表現に置き換える工夫が求められます。
⑤ 経営者の“話し方”や“好むキーワード”に着目する
経営者ごとに好む表現には傾向があります。「堅実にいきたいタイプ」「攻めの姿勢を重視するタイプ」などを見極め、それに沿った語り口を選ぶことが、伝わりやすさに直結します。
⑥ 軽い雑談から距離感を縮める
本題に入る前に、「最近、注目している業界動向はありますか?」「移動中に読まれた本で印象に残ったものは?」など、非業務的な問いが、緊張感を和らげるきっかけになります。
⑦ 社内・社外への“翻訳者”となる意識を持つ
財務担当者は、社長の判断や考えを**資料や言葉に翻訳して、関係者に伝える“代弁者”**としての役割もあります。
金融機関、取引先、社員に対して、経営者の意図を誤解なく伝える力が、
信頼構築と円滑な社内外コミュニケーションを支えます。
信頼は、伝え方によって築かれる
実際に、ある企業の経営者は、次のように語っています。
「数字の説明はみんな上手なんだけど、“この会社のことを本気で考えてくれている”と感じるかどうかは、話し方で全然違います。〇〇さんは、判断を共有する相手というより“経営に参加してくれている”という感覚があるんです。」
このような実感が、社内財務担当者の存在価値を高め、“経営チームの一員”として認められる基盤を築くのです。
コミュニケーションは“技術”であり“信頼の資産”である
財務担当者が果たすべき役割は、これからさらに多様化していきます。
自動化やAIによる会計処理が進んでも、経営者の意思決定を支える「対話力」だけは代替できません。
今後求められるのは、以下のような「対話による支援力」です:
- 難しい内容を、シンプルに置き換える説明力
- 相手の意図を読み取る読解力
- 経営者の思考を翻訳して周囲に伝える伝達力
財務担当者は、単にレポートを作成する職種ではありません。経営者と対話を重ね、意思決定の手助けをしながら、数字を通じて会社の未来を創る存在としての価値が問われています。
知識やスキルだけでなく、「伝える」「聴く」「共に考える」というコミュニケーションの積み重ねこそが、
経営者にとっての“相談相手”として信頼される第一歩となります。
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