経営環境が複雑化し、資金繰りや財務構造の健全性が問われるなか、中小企業においても財務のプロフェッショナルが果たす役割が、これまで以上に重要となっています。一方で、多くの企業では財務専任の担当者が不在、あるいは「経理」と「財務」が混在し、意思決定に必要な情報の整備や、金融機関との関係構築にまで踏み込めていないケースも見受けられます。本稿では、社内の財務担当者が担うべき基本的な役割や機能について、中小企業における経営支援の文脈で整理します。
財務担当者とは何を担うのか??経営判断を支える社内パートナーとしての機能
中小企業の財務担当者は、単に数値を記録・報告するだけではなく、経営者に対して資金計画や投資判断の根拠を示す立場としての役割が求められます。
その職務は以下のように多岐にわたります
- 資金繰りの実務管理と改善提案
- 財務データに基づく経営分析
- 金融機関との対話や資料作成
- 新規投資や融資に関する事前検討
- 経営判断に資するレポートの提供
中小企業では、CFO(最高財務責任者)を専任で配置することが難しい場合が多く、社内の財務担当者がミニCFOとしての役割を担うことが期待されています。
中小企業が抱える財務上の課題
中小企業が日々直面している財務上の課題は、以下のように分類されます。
- 売上変動による資金繰りの不安定さ
- 融資や補助金の申請に必要な資料の作成負担
- 設備投資など中長期支出の資金調達計画の不透明性
- 金融機関との関係構築のノウハウ不足
- 経営判断に必要な財務指標の整備・可視化が不十分
これらの課題を放置すると、経営判断の遅れや失敗につながる恐れがあります。
財務担当者には、現場の状況を数字で見える化し、将来の意思決定につなげていく役割が期待されます。
財務担当者に求められる主な機能
1. 財務分析と現状の可視化
月次・四半期単位でのB/S(貸借対照表)、P/L(損益計算書)、C/F(キャッシュフロー計算書)をもとに、
資金の出入り・利益構造・資産の健全性などを継続的にモニタリングします。
特に、設備投資を行う余力や、借入金の返済負担が将来の事業運営に与える影響など、
経営層が“今すぐ判断すべきポイント”を示すことが重要です。
2. 金融機関との連携・交渉支援
融資や信用保証を受ける際には、事業計画書や資金繰り表の作成、
試算表の提示、担当者との面談対応など、社内の財務担当者が中心的な役割を担うことになります。
金融機関から信頼される資料作成や説明ができるかどうかは、企業の資金調達力を左右します。
3. 資金繰りとキャッシュフローの計画
日々の入出金管理だけでなく、将来の収支予測にもとづいた資金繰り表の策定が重要です。
売掛金の回収タイミングや、仕入・給与・借入返済などの支出スケジュールを可視化し、
突発的な資金ショートを未然に防ぐ仕組みを構築する必要があります。
4. 経営判断におけるレポーティングと助言
財務担当者は、経営者が意思決定を行う際に、
定量的な視点から選択肢を提示できるポジションにあります。
たとえば「この設備投資は何年で回収できるか」「人件費増加が損益に与える影響はどうか」など、
事業戦略におけるリスクとリターンを数字で比較する資料の提示が求められます。
社内CFO的視点の必要性
近年では、社内の財務担当者に対しても、経営目線での戦略的判断を支える“社内CFO”としての期待が高まっています。
たとえば、以下のような行動が求められる場面も増えています
- 経営者の意思決定に対して、数字に基づいた“代案”を示す
- 必要に応じて「NO」と言える勇気と信頼関係を持つ
- 社外の関係者(銀行・投資家など)との窓口対応
- 経営方針に沿った財務目標の設定と進捗管理
単なる報告業務にとどまらず、経営の一員としての視座を持ち、企業の将来像と財務を結びつける存在であることが、求められています。
中小企業において、売上や取引先の拡大と同じくらい重要なのが、
社内の財務体制の強化と、経営判断の質の向上です。
財務担当者が、単なる数字管理にとどまらず、経営層の右腕として
数字をもとに未来の選択肢を整理し、リスクをコントロールする役割を担うことができれば、
企業の成長スピードや安定性は飛躍的に高まります。
「数字が整っているから判断できた」
「誰かに相談できるから迷わず進めた」
そうした実感が経営層に生まれたとき、財務担当者の真価は初めて発揮されます。
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